タイ国さかな歳時記

岡野雅海

第十八回 鯖(サバ) (プラー・サバ)

「今週の木曜日、タンブンだから、サバの味噌煮作って」。
「アイ」・・・・・
新しい住宅地のお隣さんが引っ越し祝いの“タンブン”をするそうで、若奥さんの依頼で料理番を受け持った。
相棒は張り切って料理作りを振ってくる。
他人のタンブンに、なんで俺が料理を・・・・・と思っても、そこはただ一人の日本人住民としては、なにがしかの期待に応えざるを得ない。

「調味料、そろってるよなー」。
昔は「他人のタンブンに料理が作れるか!」 なんて突っ張って、4~5日独りで寝るハメに追い込まれるという、“クサッタ”経験を持つ我が身としては、自然とアイソも良くせざるを得ないではないか、 腹が立つ。
「サバを買うならラヨンだよ」
「何で?」
「安いじゃないか」
どういうわけか、サバ(日本語)はここタイランドでもサバで通じ、海の産地の市場でも必ず売っている。
ノルウェー産、冷凍。
日本物に比べスマートで細い割には油がのり過ぎている。
お馴染”サバステーキ”で出てくる、アレ。

バンコク→チョンブリ→シラチャー→ラヨンの順に値が安くなる、不思議な現象。
タイ人は丸のまま”照焼き風タレ”をつけて売っている。
良く売れる。
好きなんだよ、この国に人は、サバが。

タンブン当日。 朝四時。
「市場へ行くぞ!」かけ声とともに市場へ。
「この店だ、サバは」。
ラヨン市場、サバは並んでいるが、売り手がいない。
「店番どこにいる!」
相棒の大声にオバサンがビックリ。 こんなもの、10本も買って一体誰が食うのか? しかも作るのは俺。
1本で四切れ、10本で40切れ。 お坊さんは9人、一人3切れ強。
全部は食えない。
実はタンブンに事寄せて部落の住民に”サバの味噌煮”を食わせる魂胆か??  仕方ないね。

朝七時。「夜が明けたぞ」、声かけて相棒は一目散に”お隣さん”の家へ。
ナベ、カマ、ガス台持って。   何をするにも熱心なんだ、この人は。 特に“タンブン”となるとおふくろまで乗り出してくる。 娯楽が少ないからなんだよな。
朝八時。 サバの味噌煮の段取りにかかる。
午前10時 味噌煮完了。
午前10時半。 相棒のお使い登場。

「お父さんも、一緒にタンブンに行く?」
「私ゃあ行かないよ」
出ていけばタイ人の興味の対象となるだけで面白くもない会話に入らなければならない。 ヤナコッタ。
結局、一日中ほったらかされ、昼飯の心配をしてくれるヤツもいない。
善かれと思ってすることも、我が身に返ってこない。  アア、タイランド。
サバの味噌煮は大好評だった、とのこと。
もう作らないよ。

著者 : 岡野 雅海 (おかの まさみ)
海と水の専門家としてバンセンの水族館建設に関わる。 海、魚好きが高じ、現在は在タイ日本料理店向けの魚を専門に扱う卸業に従事。 そのかたわら、海と魚の研究を続ける。


第一回
シャム湾
第二回
鮪(まぐろ)
第三回
鰹(かつお)
第四回
ハモ
第五回
スズキ
第六回
タチウオ
第七回
タカベ
第八回
イサキ
第九回
岩ガキ
第十回
カマス
第十一回
イワシ
第十二回
アオリイカ
第十三回
シイラ
第十四回
ボラ
第十五回
熊エビ
第十六回
第十七回
鰆(サワラ)
第十八回
鯖(サバ)
第十九回
魚屋の生活
第二十回
ソコイトヨリ
鬼サザエ
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更新日:2001年3月26日