岡野雅海
年の瀬も押し迫り、ジングルベルが過ぎるとバンコクの日本料理店にも門松が立てられます。
竹は簡単に入手できますが、松となると北から運んでくる以外に方法がありません。
お店の方に伺うと苦労の種だそうで、飾りつけていてもいつの間にか松が抜かれてしまい、余分に持っていないとお正月までもたないそうです。
ご苦労様です。
この頃から「おせち」の仕込みに入るので、おせち用の注文をいただきます。
「伊勢エビに代わる何か、ないかねえ」
「そうですね。 五色か錦になりますが」
「お重に丁度よいものを30本ほど欲しいんだが」
「値段の割に寸法がドンピシャにならないので、自信ありませんが」
「弱ったね それは」
「他のじゃあいけませんか?」
「小さいだろう、それじゃあ!」
色々とヤリトリがあった後、サンプルをお届けすることになった。
「いやぁー、デカイねこれは。 何なのこのエビ」
「海産ブラック。 熊エビです。」
「ホー、早速やってみるからチョット待ってて」
この人、他の板さんと違い、すぐに仕込み始める。 ゆであがりを早速検査。 サイズ良し、色良し、味良し、値段まずまず、と合格。 ご注文いただく。
この熊エビ、日本のクルマエビの兄弟分。 姿形がよく似ている。 タイランドでは日本の大手企業がブラックタイガー(熊エビ)養殖に乗り出し、海辺の米作地帯をエビ養殖にしてしまい、付近の農夫もこれに真似て水田や塩田をつぶし、養殖の廃水を河川に流したため米も作れず、一大荒廃地をあちこちに作ってしまった。 エサ・抗生物質の過剰と養殖用水源が極端に少なくなった事で、現在ではエビ養殖地は南タイの果てまで広がっています。
「あんた何でエビやらないの?」
こんな質問に「天然エビならいつでもやりたいと思っていますが、値段が高くちゃお店が困るでしょう。 値段の安い養殖エビは一次的・二次的問題も考えるとお納めする気になりません。 “高い、安い”が基準の世界では、私の考え方では通用しないと思いますが、いかがでしょうか?」と
商売人としては「とろ臭いヤツ」と笑われるでしょうが、甘んじて受けるつもりでいます。 それでも最近、「あんたの持ってくるエビが欲しい」と言ってくれるお客様がいらっしゃいます。 本当に心強い限りです。
私の扱っている「天然エビ」「健康なエビ」を一人でもご理解下されば、魚屋稼業の明日の励みになります。 今後とも、一味も二味も違う天然物だけをお届けしたいと思います。
「いやあ、お陰さんでうちの“おせち”、評判が良くって。 ありがとう!」
正月、初荷の当日、客先のご主人から好ましい“お年玉”をいただきました。 ありがとうございました。
鯛とエビは昔から祝い物。 こいつは春から縁起が良いわえ。
明けましておめでとうございます。
本年も相変わりませず、おつきあいの程よろしくお願い申し上げます。
2000年正月二日
●著者 : 岡野 雅海 (おかの まさみ)●
海と水の専門家としてバンセンの水族館建設に関わる。 海、魚好きが高じ、現在は在タイ日本料理店向けの魚を専門に扱う卸業に従事。 そのかたわら、海と魚の研究を続ける。
| 第一回 シャム湾 |
第二回 鮪(まぐろ) |
第三回 鰹(かつお) |
第四回 ハモ |
| 第五回 スズキ |
第六回 タチウオ |
第七回 タカベ |
第八回 イサキ |
| 第九回 岩ガキ |
第十回 カマス |
第十一回 イワシ |
第十二回 アオリイカ |
| 第十三回 シイラ |
第十四回 ボラ |
第十五回 熊エビ |
第十六回 鯛 |
| 第十七回 鰆(サワラ) |
第十八回 鯖(サバ) |
第十九回 魚屋の生活 |
第二十回 ソコイトヨリ 鬼サザエ ![]() |