岡野雅海
「オイ、一寸待て待て。」
「どうした兄貴」
「お前は痛くねえのか」
「何が?」
… この野郎、日本人の足は優しくできているんだ … とは、言えない。
アンダマン海、切り立った山裾にしがみついているカキ漁村。 稚ガキの状況を見たいので、潮が引いたのを見計らって出掛ける。
「お父さん、裸足じゃないと靴が台無しになるよ」
愛する母ちゃんのアドバイスに従い、弟分同様ハダシで出たのが大失敗。 岸から30mも来ていないのに、「一寸待て」となってしまった。
弟分は、スラタニから移住してきたカキ養殖の漁師。 政府の移住政策(ロイヤルプロジェクト?)で、10家族が移住。 この時のリーダーが弟分の親父さんだったそうだ。
潮の引いた海は一面田圃のような状態で、泥の下に何があるか考えなかったのが悪い結果を招いた。 まだ、ハッキリ顔の見える母ちゃん達は何やら飲みながら楽しげに話している。
「オイ何とか痛くねぇ所を歩かせろ」
「何だ足が痛ぇのか」と言いつつ手を取って引いてくれる。
何ともシマラ無いけど仕方がない。
「兄貴もうチョット急がないと潮が上がるぜ」
バカ野郎、コチトラ潮が上がる所の騒ぎじゃ無えんだ。 足の裏のアチコチから血が出ているようだ。
「お前さっきからなに引っかいてんだ」
話題を外しても足は痛い。
「赤貝いるんだ、ほら」
この野郎やることだけはやっている。
足を引きずって3時間、痛い海を歩き回り、稚ガキの状態、赤貝、その他の貝を見て回る。 岸へ着いた時は、夕陽が水平線に沈みかけていた。 上陸地点は小さな岬の先で、親父さんの家が建っている。
「サワディーカップ ポー」
「おや、いつ来たね。 嫁さん元気かね。 飯はまだだろ」
気のよい親父で色々と話している内に暗くなってしまった。
「母ちゃんが心配するといかんので」
「そうじゃな」
家族のようにしてくれる親父に挨拶して一路弟の家へ向かう。
「兄貴、何とかしてくれよ」
「今計画を作って出してあるんだ」
「大丈夫かな日本のお役所」
「イヤ何ともわからん、俺も初めてだからな」
タイでの牡蠣養殖事業計画書を作り、日本政府の融資制度に合うかどうか提出してはあった。 弟の家に着くと、母ちゃん二人はすっかりゴキゲン、ビールをしこたま飲んで上機嫌。
誰も亭主の心配などしていなかった。 「アア、タイランド」 ここにもあり。
夜明け、ホテルの窓がうっすらと明るくなる、母ちゃんはと見れば、スッポンポンで高いびき。
「幸せで良いねー あんたは......」
私しゃあ一晩中足の裏が疼いて、ろくに寝られもしなかったのに........(;_;)ウルウル
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「岡さん、本当にあたらないでしょうね」。
一度、生ガキにあたって以来食べなくなった友人を招いてのカキパーティー。
「カキはねー」カキを生で食べる時の注意点を教える。
まずは生ガキ。 恐る恐る食べ始めたが、1個食べれば10個も同じ。 度胸を据えて本当に10個食べてしまい、「いやぁー、矢張りカキはウマイ」。
「良かったね、本当に......(^ー^)ノ」
次、土手鍋。 赤味噌にミリン、砂糖、醤油を加え練り上げ、土鍋の中央に盛り上げる。 出汁を注ぎ、野菜、糸コンをブチ込み煮上げる。 上がったら火を弱め、生ガキをドッと入れ、火が十分に通らないうちに味噌をほぐした汁と共に小鉢に取り、フウフウと食べる。
「イヤアー天国、天国、久し振りに国の土鍋を思い出しました」。
うまい物を食べると、会話も弾む、100個あった大ガキが無くなった時は、夜中の12時を過ぎていた。
「今度いつやりますか、 当たっても良いからもう一度食べたい」。
日本人3人、タイ人1人で食べてしまった。
その後二度日本人、タイ人とカキパーティーをしたが大好評で、友人達は首を長くして、カキを待っている。
アンダマンの弟は相変わらず酒を飲み飲み、カキを育てている。
私のプランは日本政府のチェックを通ったが、事業としてはSTARTを切れないでいる。
夢を事業家する道は遠い。
●著者 : 岡野 雅海 (おかの まさみ)●
海と水の専門家としてバンセンの水族館建設に関わる。 海、魚好きが高じ、現在は在タイ日本料理店向けの魚を専門に扱う卸業に従事。 そのかたわら、海と魚の研究を続ける。
| 第一回 シャム湾 |
第二回 鮪(まぐろ) |
第三回 鰹(かつお) |
第四回 ハモ |
| 第五回 スズキ |
第六回 タチウオ |
第七回 タカベ |
第八回 イサキ |
| 第九回 岩ガキ |
第十回 カマス |
第十一回 イワシ |
第十二回 アオリイカ |
| 第十三回 シイラ |
第十四回 ボラ |
第十五回 熊エビ |
第十六回 鯛 |
| 第十七回 鰆(サワラ) |
第十八回 鯖(サバ) |
第十九回 魚屋の生活 |
第二十回 ソコイトヨリ 鬼サザエ ![]() |