タイ国さかな歳時記

岡野雅海

第十六回 鯛

「あのねー、鯛、ある?」
「ん、ある。」
「で、いくら?」
「・・・な、なんでそんなに種類があるの?」

THAILAND の鯛。 種類が多い。 その上、鯛好きの日本人のせいで、鯛でないヤツを鯛と言って売る店もあり、売る側としてもやりにくい面がある。
"分類的には・・・"これはやめとこう。 面白くない。  ・・・ん、こっちでいこう。

「カブト煮一寸」タイ人が好きなんだそうです。 甘辛く鯛の頭を煮たヤツ。 これに使われる鯛は2種類。
『おきなえびす』(プラー・ガポン・デーン)。 こやつはスズキの仲間。
もうひとつ、日本名不明。タイ名は『プラー・アンクリー』。 これはイサキの兄弟で、やはりスズキの仲間。 出身は正しいが鯛ではありません。 いずれも注文は「鯛一本」とくる。

「あれねー、ガポン・デーン。 やだね。 何か身に締まりがなくてさー。 "ぶよぶよ"っとしてない、アレ?」
「じゃあ、どうします?」
「こう、身がキリッと締まった鯛、ないかなあ」
「キリッとね・・・」

第2発目お届けの翌日。

「良かった、良かった。 あれ、何て鯛?」
この鯛、日本名不明。 タイ名『キヨ』真鯛の顔をもう少し伸ばし、体色をもうちょっと黒っぽくした赤。 前歯が2本、犬歯のように鋭くとがり、うっかり噛まれるとヒドイ目に遭う。

大体こんな感じで、各お店の使う鯛が決まりますが、これも鯛ではなく、フエフキ鯛科。  その前の"締まり過ぎ"はハマフエフキ。 これもフエフキダイ科。・・・・・やっぱり面白くないね。 "科"だの"属"だのは。

「ああ、これダメ。 うちのオーナー、台湾人だから、黒と名の付く魚は出さない主義。」
「でも、こちら日本料理店となっていますが?」
「そうなんだよねー、本当に」
本物の鯛、黒鯛を持ち込んだ時の事です

中国系の方というのはかなり"コダワリ"ますね。 黒鯛がイカン、ゲンが悪いだなんて。 このお店では黒鯛以外の美味しいお魚を召し上がっていただくことになるそうです。

「オッ、良いねー 黒鯛。 置いてっとくれ」
「いやあ好評、好評。 明日も黒ちゃん、入れて・・・。 ・・・何? ない??  お客さんにあるって言っちゃったんだよね。 そう、松鯛なの。 確かに色は黒いけど、ちょっと不気味なとこあるなー。 ・・・ないの? それしか。  じゃあしょうがない、それで」
「いやあ、好評、好評。 松鯛良いねえ。 あったらまた入れて」

この松鯛、タイ名『プラー・ガポン・ダム = 黒スズキ』となり、やはりスズキの仲間。 でも今まで出てきた魚もタイも全部スズキの仲間。 結局どうでも良いって感じ。

著者 : 岡野 雅海 (おかの まさみ)
海と水の専門家としてバンセンの水族館建設に関わる。 海、魚好きが高じ、現在は在タイ日本料理店向けの魚を専門に扱う卸業に従事。 そのかたわら、海と魚の研究を続ける。


第一回
シャム湾
第二回
鮪(まぐろ)
第三回
鰹(かつお)
第四回
ハモ
第五回
スズキ
第六回
タチウオ
第七回
タカベ
第八回
イサキ
第九回
岩ガキ
第十回
カマス
第十一回
イワシ
第十二回
アオリイカ
第十三回
シイラ
第十四回
ボラ
第十五回
熊エビ
第十六回
第十七回
鰆(サワラ)
第十八回
鯖(サバ)
第十九回
魚屋の生活
第二十回
ソコイトヨリ
鬼サザエ
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更新日:2001年3月26日